今週のAIニュースの核心は、人間の判断を介さずにAIが動く場面が急速に広がっていることだ。サイバー攻撃も、半導体への巨額投資も、身近な音声アシスタントも、AIエージェント(人間に代わって自律的にタスクをこなすAI)が主役になりつつある。便利さの裏側にあるリスクと、業界の力学の変化を見ていこう。
AIエージェントの「群れ」が仕掛けた無人サイバー攻撃
印刷管理ソフト「PaperCut」の未修正の脆弱性(ゼロデイ、まだ対策が存在しない弱点)を突いた攻撃キャンペーンが発覚した。攻撃者は自分では手を動かさず、数百体のAIエージェントに侵入作業を任せていた。
攻撃者はまず2つの脆弱性(CVE-2026-81578とCVE-2026-82078)を組み合わせるexploit(弱点を突く攻撃コード)を1つ作った。あとはAIエージェントたちが自動で標的を探し、侵入し、権限を奪う。OpenAIのCodexとDeepSeekのモデルを組み合わせて使っていたという。
スピードが衝撃的だ。何もない状態から実際の被害者へのRCE(遠隔からサーバーを乗っ取れる状態)達成まで4時間弱。そこからドメイン管理者権限の奪取までさらに2時間。本格稼働後は26秒で11団体に侵入したという。最終的に48カ国、395団体、440台のサーバーが被害に遭った。中でも教育機関が204件と突出して多かったが、これは狙われたというより、PaperCutの顧客に教育機関が多いためとみられている。
実務上の示唆
- パッチ適用のペースを見直す必要がある。AIエージェントは人間よりはるかに速く動くため、月次更新では間に合わない。
- 印刷管理ソフトのような「地味なシステム」も標的になる。目立たないシステムほど後回しにされがちだ。
- 防御側もAIエージェントによる自動検知・自動対応の整備を急ぐべき局面に来ている。
Nvidia包囲網、Positronが875億円調達で推論チップに挑む
AI半導体の新興企業Positron AIが、シリーズCで875億円(5.75億ドル)を調達し、企業価値は5000億円(50億ドル)に達した。半年前の前回調達から評価額はおよそ5倍に跳ね上がった。
Positronの狙いは明快だ。AI処理に使う高価で品薄なメモリ「HBM(高帯域メモリ)」の代わりに、スマホやパソコンにも使われる安価な汎用メモリ「LPDDR5X」を採用する。同社の試算では、Nvidiaの最新機「Blackwell GB300 NVL72」に比べ、1ドルあたり最大26倍のトークン(AIが処理する文章の単位)を処理できるという。
出資にはNEAやValor Equity Partnersなど有力投資家が名を連ねる。新チップ「Asimov」はTSMCの3ナノメートル製造プロセスで年内に試作し、量産開始は2027年後半を見込む。
実務上の示唆
- AI推論(学習済みモデルを使って答えを出す処理)のコストが下がれば、AI活用のハードルはさらに下がる。
- HBMの供給不足に縛られない設計が広がれば、Nvidia一強の構図に風穴が開く可能性がある。
- ただし量産は2027年後半以降の見込みで、実際の効果が現れるのはまだ先の話だ。
Geminiで生まれ変わったSiri、英語版の公開ベータが始動
Appleは音声アシスタント「Siri」を全面刷新し、その頭脳にGoogleの「Gemini」を採用した。両社は年間で約1500億円(10億ドル)規模とされる契約を結び、Appleは1.2兆パラメータ(AIモデルの規模を示す指標。数字が大きいほど複雑な処理ができる)のGemini専用モデルへのアクセス権を得た。
新Siriは今回、英語版の公開ベータが始まった。iOS 27と新型iPhoneの投入に合わせた展開で、今後は対応言語や機能が段階的に広がっていく見通しだ。
これはAppleにとって小さな決断ではない。長年「自社技術」にこだわってきたAppleが、看板機能である音声アシスタントの中核を競合であるGoogleの技術に委ねる格好になったからだ。
実務上の示唆
- 自社開発にこだわらず、他社の最良モデルを使う「割り切り」が業界の主流になりつつある。
- ユーザー体験の主導権と、裏側の技術選定は別物として考える時代に入った。
- 検索連携やデータの扱いなど、プライバシー面での論点も今後増えるだろう。
まとめ
今週見えてきたのは、AIが「使われる道具」から「自ら動く主体」へと重心を移している姿だ。攻撃者はAIエージェントに侵入作業を任せ、投資家は次世代の推論チップに巨額を張り、AppleはSiriの中核を丸ごと他社のAIに委ねた。便利さとリスクは表裏一体であり、防御側も企業側も「AIが自律的に動く」ことを前提にした備えが求められている。