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【AIニュース】中国発2.8兆パラメータの最大級オープンモデル、元xAI幹部が11億ドルで「個人所有AI」に挑む一方、Googleは主力モデルの遅延に苦しむ

中国のMoonshot AIが2.8兆パラメータの「Kimi K3」を重みごと公開し史上最大のオープンウェイトモデルとなった。同じ週、元xAI共同創業者が「個人が所有するAI」を掲げるRiver AIで11億ドルを調達する一方、GoogleはGemini 3.5 Proのコーディング性能不足で発売延期を余儀なくされた。

今週は、AIの主導権を「巨大ラボの外」へ広げようとする動きが目立った週だった。中国発の超大型モデルが重みごと無料で公開され、シリコンバレーでは「AIを個人が所有する」ことを掲げる新会社に巨額の資金が集まった。その一方で、先頭を走ってきたはずのGoogleは主力モデルの遅れに苦しんでいる。誰が最先端のAIを握るのかという構図が、この一週間で静かに揺れ動いた。

Moonshot AIが「Kimi K3」の重みを完全公開、史上最大のオープンウェイトモデルに

中国のAI企業Moonshot AIは7月27日、最新モデル「Kimi K3」の重み(モデルの中身となる学習済みデータ)と技術報告書を全て公開した。パラメータ数(AIが学習した知識量の目安)は2.8兆に達し、これまでで最大のオープンウェイトモデル(誰でもダウンロードして使える形で公開されたモデル)になったという。設計には「Mixture-of-Experts(専門家混合)」という方式を採用しており、質問ごとに実際に働くのは全体の一部にあたる約1040億パラメータだけだ。必要な部分だけを動かすことで、巨大なモデルでも計算コストを抑えている。一度に読み込める文章量の目安「コンテキスト長」は100万トークン(単語や文字の断片を数える単位)で、画像なども扱えるマルチモーダル対応だ。

性能面でも存在感を示した。ウェブサイトのデザイン力を競う「Frontend Code Arena」というベンチマークでは、開発者による目隠しでの評価においてAnthropicの最上位モデル「Claude Fable 5」を上回り首位に立った。米国が対中国で半導体の輸出規制を続ける中、限られた計算資源でも最先端に迫るモデルを作れることを示した格好だ。重みが公開されたことで、企業は自社のサーバー上でこのモデルを動かしたり、独自データで追加学習(ファインチューニング)したりできるようになる。

実務上の示唆

  • 自社データを外部に出さずにAIを使いたい企業にとって、性能面で選択肢に入る大型オープンウェイトモデルが増えた。導入検討の際は自社の計算基盤で本当に動かせる規模かを先に確認したい
  • 巨大モデルの性能が公開ベンチマークで裏付けられたことで、クローズドな商用APIに一本化する調達戦略にも見直しの余地が出てきた。複数モデルを併用する体制を検討する価値がある
  • 中国発モデルの利用にあたっては、データの取り扱いやライセンス条件、自社の輸出管理規則との整合性を法務部門と事前に確認しておく必要がある

元xAI共同創業者のRiver AI、創業2カ月で11億ドルを調達 「個人が所有するAI」を掲げる

イーロン・マスク氏のxAIで共同創業者を務めたイゴール・バブシュキン氏が立ち上げたRiver AIが8月11日、シード・シリーズA合わせて11億ドル(約1650億円)の資金調達を発表した。同社は6月にステルス状態から姿を現したばかりで、創業からわずか2カ月というスピードでの巨額調達となる。主導したのはGeneral CatalystとAMP PBCで、NvidiaやAMD Ventures、Y Combinator、シンガポール政府系ファンドのテマセクも参加した。

River AIが掲げる考え方は独特だ。バブシュキン氏は「人々や企業が自分たちの知性を所有できるようにするために創業した」と述べており、少数の大手AIラボから知性を借りる時代から、個人や企業が自分専用のAIを持てる時代への転換を目指している。第一弾の製品「River API」は、350億から1兆パラメータ規模のオープンウェイトモデル(前述のKimi K2.6やAlibabaのQwen3.6など)を対象に、追加学習の一種「LoRA」や強化学習(試行錯誤を通じてAIの判断を改善する手法)を行えるサービスだ。複雑な強化学習の1回分の訓練を15〜20分で終えられ、クローズドな他社サービスに比べ2〜4倍安く済むとしている。

実務上の示唆

  • 自社専用にチューニングしたAIエージェントを持ちたい企業にとって、大手クラウド以外にも訓練基盤の選択肢が広がりつつある。既存の開発体制と組み合わせられるか評価する価値がある
  • 創業2カ月での巨額調達は、AI業界の資金がモデルそのものだけでなく「モデルを育てる基盤」にも向かい始めていることを示す。取引先の技術動向を追う際はこの種の周辺インフラにも目を向けたい
  • 主要な半導体メーカーが投資家として名を連ねている点は、計算資源の供給元と訓練サービスの結び付きが強まっていることを意味する。特定の供給網に依存しすぎない調達計画を心がけたい

GoogleのGemini 3.5 Proが再延期 コーディング性能が壁に

Googleの最新モデル「Gemini 3.5 Pro」の発売延期が長引いている。ピチャイCEOは5月の開発者向けイベントで6月中の投入を約束していたが、実際には社内の目標水準にコーディング性能が届かず、延期が繰り返されている。関係者によると、Googleは6月末に学習データを作り直すなどの対策を取ったが、それでも社内テストの結果は思わしくなかったという。この報道を受けてアルファベットの株価は一時4%下落し、時価総額はおよそ4250億ドル(約64兆円)目減りした。

ピチャイ氏は決算説明会で、OpenAIやAnthropicが次々と新モデルを投入する中で足並みの乱れへの懸念があることを認めつつ、軽量版の「Gemini 3.6 Flash」がコーディングのベンチマークで10ポイント以上向上し、計算効率も改善したことを成果として挙げた。とはいえGemini 3.5 Pro本体は依然として一部パートナー向けのテスト段階にとどまっており、正式な新しい発売時期は明らかにされていない。社内では優秀な人材の引き止めにも苦慮していると報じられている。

実務上の示唆

  • 主力モデルの一つに開発計画を依存している場合、発売延期のリスクを見込んで代替モデルへの切り替え手順をあらかじめ準備しておくと安心だ
  • 大手ラボであっても性能目標に届かず延期する事例が出たことは、ベンチマーク上の数字だけでなく実際の挙動を自社ユースケースで検証する重要性を改めて示している
  • 軽量版モデルの改善が先行して発表される流れは他社でも起こりうる。上位モデルの発売を待たず、まずは軽量モデルで効果を検証しておく進め方も選択肢になる

まとめ

今週のニュースを並べると、AIの主導権が一部の巨大ラボから外へ広がろうとする力と、それでもなお先頭集団であり続けようとする力とがせめぎ合っている様子が見える。Moonshot AIの「Kimi K3」は、限られた条件下でも最先端に迫れることを重みの完全公開という形で証明した。River AIの巨額調達は、AIを「借りる」のではなく「所有する」という発想に、投資家たちが本気で賭け始めたことを物語る。そしてGoogleの延期は、そうした変化の速い競争の中では、実績あるトッププレーヤーでさえ足をすくわれかねないという現実を映し出している。AIをどこから調達し、どう育てるかという選択肢が広がるほど、自社に合った組み合わせを見極める判断力が問われる局面が続きそうだ。