今週のAIニュースは、新モデルの性能競争よりも「何かあったとき、誰が責任を取るのか」という話題が目立ちました。AIエージェント(人に代わって作業を進めるAI)が実際に事故を起こし始め、法律や裁判の出番が増えています。一方で、自由に使えるオープンなモデルも着実に進化しています。
なお、内容は主に報道ベースです。数字や日付は、公式発表でも確認することをおすすめします。
米政府が押す「作った側が責任を負う」という考え方
AIが暴走したとき、誰が損害を払うのか。この問いに、米国のトランプ政権が答えを出しつつあります。Who Pays When AI Goes Rogue? などの報道によると、ベッセント財務長官と、元ホワイトハウスAI担当のサックス氏が、AI開発企業に責任を負わせる方針を支持しています。
ベッセント氏は下院の委員会で、AI企業が求める「責任の免除」に反対しました。「安全を確実にする最良の方法は、作った側が自分の作ったものと生成物に責任を持つことだ」という趣旨です。サックス氏は、危険なAIが出た場合に起こり得る訴訟を「製造物責任訴訟の親玉」と呼んでいます。製造物責任とは、欠陥のある製品で被害が出たとき、作った会社が負う責任のことです。
ポイントは、新しい規制を作るのではなく、今ある法律で対応しようとしている点です。トランプ大統領は新たな安全策には消極的で、問題が起きれば司法省が動くべきだという立場だと伝えられています。AI企業に事故の報告と被害の修復を求める動きも出ています。
ただし、専門家は今の法律で足りるのか疑問を示しています。米国の主要なハッキング対策法は「故意」を証明する必要があります。AIエージェントが自分で判断して動いた場合、誰の故意なのかは分かりにくいのです。モデルを作った会社の責任なのか、それを業務に使った会社の責任なのかも、まだ決まっていません。The Next Webの記事も、この「責任の所在があいまいだ」という点を指摘しています。
実務上の示唆
- AIを業務に組み込む会社は、事故時に自社が責任を問われる可能性を前提に、契約書を見直しておきましょう。
- AIベンダーとの契約では、事故時の補償範囲、ログの保管、停止手順を具体的に決めておくと安心です。
- エージェントに与える権限は最小限にします。「触れるものを減らす」のが最も確実な責任対策です。
- 保険会社もこの分野に関心を示しています。AI向けの保険条件が変わる可能性があるため、情報を追っておくとよいでしょう。
OpenAIをめぐる著作権と営業秘密の裁判
責任の話は、すでに法廷で動いています。今週は、OpenAIを相手にした二つの裁判が注目されました。
一つ目は著作権です。USA Today Hits OpenAI With $250 Million-Plus Copyright Lawsuit によると、USA Today系の出版社は10月8日、ニューヨークの連邦地裁に提訴しました。2億5000万ドル超の賠償に加えて、著作物を含む学習データと、それで作られたモデルの破棄まで求めています。
賠償金だけでなく、モデルそのものの破棄を求めている点が重要です。もし認められれば、学習に使ったデータの扱いが業界全体で変わります。ただし、訴えが認められるかはまだ分かりません。
一方で、新聞社とAI企業が手を組む動きも続いています。Press Gazetteの整理では、訴える会社と契約する会社が並行して増えています。インドの新聞大手2社とOpenAIが契約した、との報道もあります。「訴えながら、条件が合えば契約する」のが今の相場です。
二つ目は、AppleによるOpenAIへの営業秘密の訴訟です。営業秘密とは、会社が外に出したくない技術や情報のことです。9to5Macなどによると、Appleは7月に提訴し、OpenAIと元社員2人に秘密の利用を禁じる仮処分(判決前の一時的な差し止め)を求めています。OpenAIは「秘密が具体的に特定されていない」として、訴えの却下を求めています。
Notebookcheckは、仮処分をめぐる審理が10月14日に予定されていると伝えています。ただし、日付は報道によって食い違っています。判断はまだ出ていません。
実務上の示唆
- 社内でAIを使うときは、他社の資料や自分の会社の機密を入力しないルールを徹底しましょう。
- 生成物を公開する場合は、元の著作物と似すぎていないか確認する手順を持ちます。
- 転職や出向で人が動くとき、前職の情報を持ち込まない誓約と記録が、今まで以上に重要になります。
- 裁判の結果次第で、AIサービスの価格や使える範囲が変わる可能性があります。依存しすぎない構成が安全です。
Aleph Alphaの「Kolibri-1」:欧州発の自由に使えるモデル
最後は技術の話題です。ドイツのAleph Alphaは10月3日ごろ、「Kolibri-1」をHugging Face(AIモデルの公開サイト)で公開したと報じられています。DataCampなどによると、ライセンスはApache 2.0です。これは、商用利用や改変が広く認められる、ゆるやかな条件です。
特徴は、ドイツ語と英語の両方に強いことです。仕組みはMoE(専門家混合)です。得意分野の違う小さな担当者を多数用意し、質問ごとに一部だけ呼び出します。全体のパラメータ(モデルの大きさを表す数値)は約781億ですが、1回の処理で使うのは約35億です。
入力できる長さは、標準で約26万トークンです。トークンはAIが文章を数える単位で、26万なら小説の数冊分にあたります。拡張すれば約100万まで広げられるとされています。
注意点もあります。重みは軽量化されていますが、それでも動かすには約78GBのGPUメモリが必要です。個人のパソコンでは難しく、会社のサーバー向けです。また、数学とドイツ語の推論では強いとされる一方、知識問題や複数回のやり取りを伴う道具の利用では、Qwen3.6 35B-A3Bに及ばない部分があると報じられています。数字は開発元の自己申告です。
実務上の示唆
- 個人情報や機密を外に出せない会社は、自社サーバーで動かせる選択肢として検証する価値があります。
- ドイツ語圏の顧客対応や文書処理では、候補に入れてよいでしょう。
- 性能表はそのまま信じず、自社の文書で測り直してください。
- 動かすための機材費と運用の手間も、導入判断に含めましょう。
まとめ
今週は、AIの使われ方が広がった分だけ、責任の線引きが問われた週でした。米政府は「作った側が責任を持つ」という既存の法律で対応する道を選ぼうとしています。しかし、自律的に動くエージェントの事故をどう扱うかは、まだ答えが出ていません。
裁判の結果は、学習データの扱いやAI企業の事業の形を左右します。その一方で、Kolibri-1のように自由に使えるモデルは増えています。便利さを手にするほど、契約と運用ルールで自分を守る必要があります。次に注目したいのは、Appleの仮処分の判断と、USA Today側の訴えの行方です。